チーズ料理より愛を込めて 1


 昔々、ある貧しい街にフルブライトとトーマスという仲の良い二人兄弟がいました。
兄のフルブライトは短く切り揃えている金色の髪と湖面のような青い瞳で温和な性格の少年でした。弟のトーマスは、癖のある茶髪を後ろに纏め、ロイドメガネを掛けた穏やかな性格の少年でした。二人は、赤毛でモミアゲの濃い天文学者の父ヨハンネスと非常に貧しい生活でしたが、幸せに暮らしていました。
 ある日、3人の前にビューネイという和服美人の金髪の女性が現れ、ヨハンネスとの仲が次第に親密となり二人の隙に入り込める余地も無く再婚したのでした。しかし、貧しい生活は続いていました。

 そしてそんなある日のことです。
継母のビューネイが夫に二人の子供と一緒に、食事になりそうな木の実を森へ探しに行きたいと提案しました。ヨハンネスは、寝起き後の事もあり、用件を半分寝ながら聞いただけで承諾したのでした。こうして3人は食料を探しに森へ行くことになりました。森を歩いているうちに二人の子供は途中、継母と逸れてしまいました。
「兄さん、逸れたみたいだね」
 トーマスは冷静な表情と口調で兄に声をかけました。
「ああ、どうやら私たちをハメて家に帰ったのだろう。・・・仕方のないことだ、これだけ貧乏な生活だと家計は火車だからな」
 フルブライトも予期せぬ事態とは捉えず、冷静な口調で森に取り残された現実を見極めていました。そう、二人の子供達は継母に捨てられたのでした。
「トーマス。 目印の石は、ちゃんとあの女に見つかることもなく落としてきただろうな?」
 そう言葉を続けたフルブライトに対して。
「ああ、事前に情報を得ていたからね。 目印の石は・・・ほら、この通り家まで帰れるよ」
 トーマスも、後ろを振り返りながら小石に指を指して家路を示しました。
「そうか、さすが私の弟だよ。 折角の森の散歩だ。 この先に何があるのか、探索をしてみようではないか」
 フルブライトは、ニマリと微笑みながら弟に提案しました。
「ええ、家路までの目印もありますし。 兄さんの提案に従い散歩をしましょう!」
 トーマスもフルブライトの提案に乗りました。こうして、二人は森の奥に足を運ぶことになりました。
それから、二人が森の奥に一軒の家屋を見つけました。
「兄さん、これ・・・お菓子ですね。 レンガの代用品の材料として使われた建造物ですね」
 トーマスは、驚きのあまり家に手を触れて感触を確かめるように言葉を発しました。
「・・・ああ。 どうみても常識から逸脱している。本当にお菓子でできている家なんだな。 もし、私たちに十分なお金があったら物件として取引品目に出したいものだな」
 フルブライトも貧乏な家でなければ、事業を起こしたく常に商売についての勉強をしていました。そして、物珍しい『レンガの代わりにお菓子で建てられた建造物』を略した『お菓子の家』を目の前にして商売の話に目を輝かせていました。
「さすが兄さん、商才がありますね。俺はそこまで考えが回りませんでした」
 トーマスは兄の商才に憧れを抱いていました。だからこそ、事業を起こせる資金があればと切に願うのでした。

 そして二人は、本当にお菓子で建てられている家かどうか空腹も手伝って、確かめる為と称してお菓子の家を食しました。
「これ、本当のお菓子ですね。 どうやって・・・ここまで建てたのでしょうね。 建築方法もあるのかな? ・・・現実的にありえないな」
 料理が趣味であるトーマスは、不思議そうな視線でリアルに建っているお菓子の家をまじまじと見つめながら言いました。
「うむ、そうだな。 幸い、家の中には誰も居ないようだ。 何故建っているのか設計図や物件所有者に抵当権などの権利書を調べてみよう」
 フルブライトは提案しました。兄の提案にトーマスも同意をし、たまたまカギが開いていた家の中に入りました。しかしフルブライトは、目当ての書類を見つける事が出来ませんでした。
 弟のトーマスは、台所に大きなチーズの塊が無造作に置かれていたのを見つけました。そこでつい、彼は手に取り加工具合を確かめ料理をするならばと、献立を考えていました。けれど二人は『長居は無用』と考えさっさとお菓子の家を後にしました。しかしトーマスは、チーズの塊を持って来てしまったことに気がつきました。だが兄は何も言わなかったので、そのまま持ち帰ることにしました。


 それから数日経ったある日のことです。
トーマスは、持ち帰ったチーズでオーラム金貨に似せた料理を作り上げました。そしてフルブライトは、商売の勉強をしていました。だが継母のビューネイは、二人を再び森へお使いに出したいと夫に言っていた事を知る由もありませんでした。
 その翌日、二人は再び森の奥に連れていかれてしまいました。しかしその時、トーマスはチーズ料理をこっそりと持ち出していました。それを道しるべにするべくチーズで作ったコインを一つずつ落としていきました。
 そして、そのうちの一つが小さな泉に入ってしまいました。そして、『ブクブクブクブク・・・』と水しぶきとともに、青色の髪に多少だが化粧の濃い女性が現れました。
「あの・・・俺達に何か用があるのでしょうか?」
 トーマスはロイドメガネをクイッと中指で掛け直しながら、小さな泉から現れた女性に穏やかな声音で言葉を掛けました。
「貴方は今、この金貨を落としましたね?」水の精霊は口を開きました。
「・・・あの、私はフルブライトと申します。 貴女は一体どなたでしょうか?」
 フルブライトは、異様な出来事に対して客観的に且つ冷静でオトナな対応で応じました。彼の真摯な対応に精霊はとても感動しました。
「まぁ、礼儀の正しい殿方ですね。 私は、水の精霊ウンディーネと申します」彼女は律儀に答えました。
「そうでしたか。 ウンディーネさん、俺達は金貨を落としていません。 このチーズで作ったコインを落としました。そこら辺に置いて下されば問題はありません」トーマスは、用件を言うだけ口にしました。
「貴方がたは正直な方々のようですね。 では正直者な貴方には、落としたらとても綺麗な音が鳴るオーラム金貨を100枚差し上げます」
 ウンディーネは、正直者の兄弟にチーズのコインではなく本物の金貨を100枚押し付けました。
「あの〜出てくる話が・・・全然違いますよぉ〜」
 フルブライトはすかさずツッコミを入れました。けれど彼女は『ホホホ・・・』と、笑ってごまかしてしまいました。
「では、こちらのチーズで作ったコインは?」
 トーマスは怪訝そうな表情を隠して水の精霊に質問を浴びせました。
「そうね、落し物だから口にしたくないわ。 でも、美味しそうね♪」そう答えました。
「では、お金をタダで頂くなんて滅相もありません。 こちらのチーズ料理で宜しければ、是非お受け取り下さい」
 トーマスは、穏やかな声音で彼女にチーズで作ったコインを入れた袋を差し出しました。
「まぁ、これを私に。 では、お礼にあと100オーラムを差し上げますわ♪」
 二人の真摯な且つ丁寧な対応と態度に対して、ウンディーネは喜び金貨を奮発しました。
「え〜と、兄さん。 どうしよう。 これじゃあ、悪いよ」困った表情でトーマスは、兄に振り返りました。
「・・・・・・仕方がない、これは彼女のご好意だ。 頂いておこう」
 フルブライトは、諦めきった表情で弟に言いました。こうして二人は、小さな泉を離れました。
それから二人は、どういう縁か再び見覚えのある森の木々を目にして真っ直ぐ歩いて行きました。

 二人が再び辿り着いてしまったお菓子の家には老婆が住んでいました。
その老婆の名はバイメイニャンと言い、驚く事に彼女は魔女でした。魔女は兄のフルブライトを、太らせてから食べようと思い至り、居間から出ないよう監禁してしまいました。そして、弟のトーマスは奴隷にされてしまいました。フルブライトが座らせられているテーブルの前には、たくさんのご馳走が並べられていました。
「さあ、全部お食べ。そしてわたしのために太るんだよ。ヒィッヒィッヒィッ・・・・・・」
 バイメイニャンが、太らせてから食べようとしているフルブライトに食事を与え食べるように命令をしました。フルブライトは、魔女に逆らえず食事を口にしました。だがしかし・・・・・・。
「不味い!! なんだなんだぁ!! このクソ不味い料理はぁっ!!!」
 味に不満を抱いたフルブライトは、たくさんのご馳走が置かれているテーブルの端に手を掛けて、ちゃぶ台宜しくと言わんばかりに思いっきりテーブルをひっくり返しました。

ドドーン・・・ ガッシャーンッッ!!!

とても大きな音と共に、皿が割れる甲高い音も混じっていました。
「何て事をするんじゃぁぁーーーっっ!!」
 フルブライトの予想もつかない行動に、驚いた魔女バイメイニャンは怒鳴りました。

「婆さん! それはこっちのセリフだぁっ!! こんなクソ不味い料理、料理とは言えないぞぉ!!! こんな料理を食わすのなら死んだ方がずっとマシだぁっっ!!!!」
 フルブライトも、魔女の怒鳴り声に負けない位の大声で怒鳴り返しました。
「何だとぉっ!! 食料の分際で、生意気な事を言うんじゃないよぉっっ!!」
 魔女もテーブルを倒したフルブライトに立場を含ませた脅しを怒鳴り声で言いました。
「こんなクソ不味い料理は、食べたら食中毒になるだけだ! 太るわけが無いだろうっ!!!」
 しかしフルブライトは、きっぱりと即答しました。
「ムキー!!! 食中毒だとぉ!! ふざけるんじゃねぇ!!」
婆さんはとうとうキレました。



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