チーズ料理より愛を込めて 2


 キレた婆さんと不味い食事に激怒した兄とは別に、奴隷として働かされていたトーマスは、釜戸に炎をくべる為、蒔を放り込みました。そうしたら、なんと!釜戸から炎の精霊が現れました。
「(・・・また話が違う)あの、どちら様でしょうか?」
 トーマスは、穏やかな口調で突然現れた精霊に声を掛けました。
「お前か、釜戸に蒔を放り投げたのは? 痛いではないか、見ろ瘤が!」
 精霊は蒔を投げつけられて、怒っていました。
「あの・・・その件は謝ります。 ところで、貴方はどちら様です?」
 トーマスはあくまで冷静に、兄に倣ってオトナな対応に勤めました。
「おおぅ、ワシか。 ワシは炎の精霊アウナスじゃ。 時々だが釜戸に婆さんが顔を突っ込んで人使いの荒い命令をするんじゃ。 見たくもないババアの顔を見るのは気色悪くてな。 しばらく遠出をしていた所、騒がしかったから帰ってきたのじゃ。 なんだお前は、新入りの食料兼奴隷か」
 アウナスは、簡素に長い説明をしました。
「炎の精霊ですか・・・(水の精霊と違って今度は爺さんだな)」
 内心の呟きを聞いたら怒るだろう発言は心に留めて、返事をしました。それから釜戸を無視したトーマスは、兄が心配になり彼の元に向かいました。そして彼は驚くべき光景を目にしました。

 それは倒れたテーブルの側で、兄フルブライトと魔女バイメイニャンが取っ組み合いの乱闘を起こしていました。だがその取っ組み合いの最中に、フルブライトは先ほどウンディーネから貰ったオーラム金貨を派手に撒き散らしてしました。
チャリーン!! じゃらじゃらじゃら・・・・・
とても綺麗な金属音が辺り一体に響きました。
ドドドドドドドッッッ!!!!!! ドゴォッ!!
そして何処からともなく、複数の足音が聞こえて来たと同時に壁に大穴が開きました。
「うぉぉぉぉぉーーーーー!!!!カネ見っけぇっ俺のモン!!!」
 褐色肌で傭兵風の大漢は野太い声と共に後ろから暑苦しくてむさ苦しい、その上汗臭い漢が5人も、床にばら撒かれたおカネに向かって、ヘッドスライディングで飛び込んできました。
「「なななななななななな・・・・・・」」
 突然の乱入者に取っ組合いを繰り広げていた兄と婆さんは腰を抜かして声がハモっていました。そしてトーマスは思わず、彼らの汗臭さが鼻につき口に手を当てました。
(うっ、何て汗臭い・・・何日以上、風呂に入っていないんだろうか・・・?)
 思わず内心でだが、今までに嗅いだ事の無いほど強く汗臭い匂いに吐き気を覚えながら呟きました。だがその後も茫然と乱入者をしばらく見つめていました。
(おいおい、兄さんが持っていた100オーラムを奪い合いながら全部フトコロにしまい込んだな)
トーマスは内心呟きながら『落ちたモノは自分のモノかよ』と、冷たい視線を送っていました。

 トーマスの視線を目にも留めず、汗臭い漢達はお菓子でできた家の中を美味しそうな視線で見回しました。そして、魔女と目が合いました。
「なんじゃ、お前達は!! おや、しかし・・・美味そうだねぇ」
 バイメイニャンは、乱入した漢達を眺めて美味しそうな食料が増えた事に気付き喜びました。
「なんだぁ、俺達を食料だとぉ。 ふざけるんじゃねぇ!! このぉクソババァ!!!」
 婆さんの言葉に反応した、黒髪に赤いバンダナを巻いた隻眼の漢が怒鳴り返しました。
「おい、兄弟。 あのババァを殺っちまってもいいか?」
赤いハットに赤い鎧を纏った巻き毛の大漢が、褐色肌の傭兵風の漢に野太い声で唾を吐き捨てるような口調で言葉を掛けました。
「おう、俺達を食料とほざいたババァなんざ、ぶっ飛ばすに限るぜ! よし、お前ぇら。 そこいらに転がっているメシを・・・奪い合うなっっ!! この肉は俺のだぞぉ!!」
 ボスと思われる褐色肌の大漢は魔女のぶっ飛ばしを宣言しました。
しかし、床に広がっていた豪華な料理を奪い合っている、黒マントで覆面の小太りな男と緑色のマントの背中に不気味な太陽が微笑んでいるローブを纏った男は、なんと大きな骨付き肉を奪い合っていました。
「ボス、あの二人は放っておいて、この隕石のかけらで親分の新兵器を試してみませんか?」
 刺メットを被った青い服の青年が、石ころをボスに見せながら提案をしました。
「よし! ウォード、お前のアレでポールと一緒に派手にかっ飛ばしてやれ!」ボスは命令を下しました。
 二人は嬉々した表情に一変し、巻き毛のウォードは袋から大きな釘バットを取り出しました。バンダナを巻いている海の漢は釘バットを目にして口笛を吹きました。
「よ〜し、親分行くぜ!」と、隕石のかけらを投げるポール。
「フン、いつでも来やがれ」と、ガキーンとかけらをかっ飛ばすウォード。
 そう、二人は千本ノックを始めたのです。ウォードが打った隕石のかけらは、婆さんを狙って高速で飛びました。先ほどまで取っ組み合いをしていたフルブライトは、青ざめた表情で婆さんを放ってその場を離れました。けれど隕石のかけらは、容赦なく婆さんに向かっていました。しかし、相手はただの婆さんではなく魔女でした。バイメイニャンは魔法で壁を作り、なんと!隕石のかけらを跳ね返しました。それを見たボスは舌打ちをし、監督のようにサインを変えました。
「おっ、ハリードのサインが変わったぜ」
 更に海の漢ブラックがフォローのサインも送りました。それを見た二人は、ポールは隕石のかけらの位置を少し変えて投げました。
「フン、同じことをやるのかい。 何度やったって跳ね返るだけだよ」
 婆さんは余裕の笑みを浮かべていました。
「へへへ・・死ぬのは手前ぇさ、ババァ」
ウォードは壮絶な笑みを浮かべて隕石のかけらを再び打ちノックを始めました。
 ―――そして。
カーン! コーン! ドガッ!!
「ぎゃぁぁぁぁーっ!!」
 何所からともなく悲鳴が上がりました。悲鳴の主は、なんと釜戸のアウナスからでした。
「おう、気合い入れすぎだぞ! もっと気楽にやろうや」
 ブラックは相手を間違えた事を気にも留めず、狙いを間違えた二人にニマリとフォローを入れました。そして、釘バットによる千本ノックが再開しました。そして・・・・・・・・。
カキーン! カーン! コーン! キーン! ドゴォッッ!!
「ブヴァァッ!!」
 複数の隕石のかけらが跳弾により、婆さんにヒットしました。
「へっ、俺の『釘バット跳弾』に敵はいねぇぜ」
 ウォードが勝ち誇った笑みを浮かべて言いました。
「さすが、親分!」
 ポールも目を輝かせながら、言葉を続けました。ウォードの『釘バット跳弾』により、お菓子の家は至る所に穴が開いていました。そして、アウナスにも隕石のかけらがかなり当たっていました。
「なんて奴らじゃ! ワシが久しぶりに帰ってきた我が家を破壊しおって・・・」
 とうとうアウナスまでキレてしまいました。そして・・・。
ドカーン!!! ゴゴゴゴゴ・・・・・
アウナスの怒りの炎により、お菓子の家は爆発後炎上してしまいました。


 お菓子で出来た家は、お呼び出ない汗臭い漢達vs魔女バイメイニャンvs釜戸の炎アウナス達、三つ巴の乱闘現場に変わってしまいました。二人の兄弟は、お菓子の家が爆発する直前に命からがら脱出していました。彼らは途中、背後から凄まじい爆発音を耳にして『逃げるが勝ち』と心底思いました。けれど二人は直感だが、あの汗臭い奴らはきっと生きているだろうと強く確信をしていました。そして道なき道を走り、抜けた先にある森の中で迷子になってしまいました。しかし、何処からともなくチーズの匂いが漂ってきました。
「おい、トーマス。 このチーズは・・・?」
 フルブライトは、神妙な眼つきでトーマスに振り返りました。
「確かに、道しるべに落としたチーズだね。 やはり、小鳥や動物達もエサにしなかったのか・・・」
 トーマスは、一人合点の付いた言葉を呟きました。
「一人で納得しないでくれたまえ。 説明をしてくれ」
 フルブライトは説明を求めました。
「・・・あぁ。 あのチーズのコインにはね隠し味に『ババネロのエキス』を混ぜていたんだよ」
 トーマスの思わぬ言葉にフルブライトは耳を疑いました。
(ババネロって・・・? あのババネロだろ?! あの・・激辛唐辛子のアレかぁ?! ・・・確かに、あんな激辛チーズだったらフツーは逃げるぞ!! ?!)
「おい! あの水の精霊は・・・!」
 フルブライトは思いっきり大声でトーマスに声を掛けました。
「そんなに耳元で怒鳴らないで下さい、兄さんの声は充分に聞こえますよ。 きっと彼女は辛党だったんでしょうね」
 トーマスは兄と違って全く動じず、ニッコリと微笑みながら即答しました。
「・・・辛党か。 ッハハハ・・・ハァ〜〜」
 フルブライトから、どこか虚しい笑い声から最後には溜め息が残りました。そう彼ら兄弟は、激辛唐辛子ババネロを混ぜたチーズ料理のお陰で自宅に帰る事ができました。兄の反応を気にも留めないトーマスは、家に帰る事を思い出して家路につきました。
 家族の帰りを待っていた父ヨハンネスは、子供の無事な姿を目にして喜びました。自宅に戻った二人は、継母も彼らが消えたと同時に行方不明になっていた事を知りました。二人は、何故か継母が魔女である事を悟りました。あの爆発に巻き込まれたならきっと・・・と思いました。だが考えてみれば、今まで3人で幸せに暮らしてきた事を思い出し、二人は何も言いませんでした。


 それから数日後。
トーマスのチーズ料理で手に入った100オーラムを元手に、フルブライトは事業を始めました。遠い未来、貧乏生活が嘘のような裕福な生活を、彼らならきっと送る事が出来るだろう。



おしまい♪



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