Tous ou Rien


―――本当は、皆と一緒に辞めるもりだったんだ……。

 数日前の事だった。
パリの街を騒がせていた鉄仮面なる盗賊団の首領が、宰相リシュリュー主催の園遊会でアトス、アラミス、ポルトスたち三銃士とダルタニャンの活躍によって逮捕された。そして一見平和になったと思えたのだが、園遊会の資金問題で国の実権を握っている枢機卿リシュリューが逮捕されシャトレの牢獄へ連行されてしまった。
 過去にリシュリューの密偵として働いていたミレディーが国王の侍女に就任など、国王を取り巻く情勢が瞬く間に急変をしたのだった。この事件がキッカケとなり長年銃士隊長を務めてきたトレヴィルも退職願を出し、銃士隊長のホストが空いてしまうのだった。そして、隊長にふさわしい人物として三銃士がルーブル宮殿へ呼ばれる運びとなった。
 謁見の間にて、アトス、アラミス、ポルトスの三人は宮殿へ呼ばれた背景を察して兼ねてより3人揃って銃士隊長トレヴィルの後任を断るつもりだった。
 ―――だが。
アトスは冷めた表情で国王からの要請を即答で辞退した。次のポルトスは特に、断り文句のトドメに皮肉を込めていた為、新しく宰相に就いたマンソンをいきり立たせて突き飛ばすことに成功したのだった。冷笑を浮かべていたアトスとアラミスだったが、偶然にもマンソンがアラミスの近くまで転んできた。そしてたまたま、彼が身につけていたペンダントがアラミスの足元まで転がってきた。アラミスはふと何気に、そのペンダントを拾ってみると。
(……?! こっ、これはっ!!)
片時も忘れることもない、思い出のペンダントであることが発覚したのだった。
 その時、アラミスは国王ルイ13世に名を呼ばれた。金髪の銃士は口に出掛かっていた辞退の言葉を無理にでも飲み込み、親しい友人に内心で謝りながら心を鬼にする決意を固めた、そして――。
「喜んで、お受け致します。マンソン殿、大丈夫ですか?」
 隊長就任を承諾の意を答えつつ、金色の眉を伏せたまま一切の感情を表さず助け起こした際にペンダントを返す。一連のアラミスの行動に激昂をしたポルトス。
「アラミスッッ!!!」
 大男の銃士は、感情に任せて拳を強く握りながらアラミスへ駆け寄ろうとした。だが寸でのところで、どんな状況でも流されないアトスに抑えられてこの場は何事も無く収まったのだった。
 しかしポルトスの怒りは収まることもなく、約束を破ったアラミスへ激しい感情をそのまま視線で送り続けていた。逆に常に冷静さを失わないアトスは、何か思案に耽る表情を浮かべてアラミスを黙って見守っていた。一切の感情を切り捨てたアラミスは、マンソンが掛けなおしたペンダント一点へ視線が留まったままである。
 だが、そんな沈黙の時間はつかの間の事で、アトスとポルトスはトレヴィルの後を追い銃士の退職願を出して、さっさと宮殿を後にしたのだった。こうして、長い一日の幕が下りた。


 ―――そして、夜が明けた翌朝のことである。
隊長職に就任したばかりのアラミスは、宮殿内で一夜を明かしたのだが。前日の晩、婚約者だったフランソワの仇を討つ為に6年の間ずっと探していた仇敵にとうとう出会った興奮からか寝付くことが出来ずに。そして長い間、彼女の手から消えつつあるフランソワの温もりが悪夢となって甦ったこともあり余計苛立っていた。丁度そんなアラミスにお構いなく、のうのうと近寄ってきた人物が現れた。近づく気配に気が付いた金髪の銃士隊長は振り向き。
「……これはマンソン殿、如何しましたか?」
 一見穏やかに声を掛けたのだが、その声音には微かだが激しい憎悪と殺気で震えていのだたが。当のマンソンはご機嫌のようで、アラミスの様子に気が付く事もなく命令書を持ってきた。


 ―――それから数時間後。
ダルタニャンが下宿をしている仕立屋ボナシューが下町に借りている借家である。だが、数日前にこの家主が鉄仮面に攫われてダルタニャンは丁度ボナシューの救出の手がかりを求めて家を空けていたのだった。しかし現在、外出中のダルタニャンに代わって銃士を辞めたアトスとポルトスの二人が留守をしていたのだった。そこへつい最近、ジャンが知り合った友達のコレットがミレディーからの手紙とは知らずに二人は手紙を受け取ってしまった。その後―――。
 アトスは手紙を広げてみたところ、何かの図面であることが判り。
(何故、このような書類を…?)
 届けさせた理由と真意に思案を巡らせていた。その時突然、アラミスと数人の銃士が、アトスとポルトスへ手渡された書簡を巡って逮捕しに来たのだった。そして、二人を囲むように借家の壁に追い詰めていくが。
「ポルトス……これは罠だ! ここは俺に任せて、お前はダルタニャンの元へ行け!!」アトスがそう小さく囁きながら最後には叫ぶ。
「何を言っているんだアトス! 行くのは君だ!!」ポルトスは即答で否定した。
「いいから行けっ!!」
 返答に苛立ったアトスは、大男を手加減なく思い切り突き飛ばして逃走させたのだった。その脇から一部始終を見ていた銃士たちは『逃げるな! 追え!!』と追っ手が駆け出そうとしたところ、アトスがその前に立ちはだかり妨害をする。銃士たちはかつての同僚の実力を十二分に熟知している分、動き出せずにいた。
 だがその沈黙を破るかのようにアラミスは、無言のままアトスと向かい合った。それからわずかな間に沈黙を先に破ったのはアトスだった。
「アラミス、ポルトスを追うな。 君には事情があって本心から隊長を引き受けた訳ではないのだろう? 俺には判っている。 ……代わりに俺が逮捕されよう」
 率直な全てを見透かすアトスの真摯な瞳が、自分を自分の目を捕らえてアラミスは視線を逸らすことが出来なかった。
「…ああ、そうだ。 (今ここで罠と判っていても動かないと、奴が仇か証拠がつかめなくなる……) すまないアトス、時が来たら全てを話す」
 『俺には判っている』そう迷いもなく言い切ったアトスの声音は静かで淀みもなく穏やかだった。彼の声音はアラミスの波立つ苛立ちを沈める様に彼女の心に染み込んでいくことが自身のどこかでそれを自覚していた。気持ちが幾分かは落ち着いたのだが、すぐに事情を話せないアラミスにとって内心の声は出せず、ただ話せるときが来たら秘密を告白しようと決意をして沈黙を守る友にそう告げることしか言えなかった。
「…そうか、判った。 アラミス頑張れ」
 小さな声でアトスが、向かい合う友人の沈黙をすぐに破り激励を送った。
「……ではアトス、君を逮捕する」どうにか声を絞り出したアラミスに対して。
「ああ、さあ行こうかアラミス。 案内してくれ」
落ち着き払った声音と口調で、黒髪の青年は剣帯を外して優しく促した。
 結局、殿様然とした態度のアトスに気圧されたアラミスは、彼に従うような形でシャトレの牢獄へ連行することになった。


 護送中の馬車の中でも、アトスと向き合う形でアラミスが乗ったものの、新任の銃士隊長は黒髪の青年と視線を合わせることが出来ずに俯いたままだった。やがてシャトレに到着した一行は、牢獄の管理者ベーズモーは、今度はアトスが逮捕されたことに驚いたが、当のアトス本人は何食わぬ表情で現状をまるで気にしている様に微塵も感じさせなかった。
「リシュリュー閣下に続きアンヌ王妃……そして今度はアトス様とは。 一体どうなっているんだ!?」
 宛がわれた部屋へ連れていく途中、ベーズモーが不思議そうに呟いていた。金髪の銃士隊長はそれを黙って聞いていた。
 そして、アトスが独房へ彼女を通り抜けて入ろうとした時のことだった。黒髪の青年は、表情を変えずに友人の耳元で一言囁き。アトスの言葉にアラミスはハッと息を飲んだ。そんなアラミスを知ってか否かは構わずに、彼女の肩を軽く叩きエールを送るようにアトスは入っていった。


 程なくしてシャトレの門を出たアラミスは、どこか上の空で広い青空を眩しそうに帽子を深く被りながら歩きだした。そこへ唐突に、耳元で囁いたアトスの言葉が脳裏に甦る。
「・・・・・・『思い出に負けるな、信念を貫け』か。 確かに今、思い出に負けかけていたよ。 ……負けてしまったら信念のために約束を破ってまで選んだ決断の意味すら無くなる。 どうやらアトスに大きな借りを作ってしまったな。 ・・・いつか、本当のことを話すと約束をしたんだ。 この状況をどうにか解決させたら、私は必ず君を助け出して全てを話すとアトス・・君に誓うよ」
 彼女は背後に聳え立つ牢獄を振り返り、彼が居そうな階層へ何か吹っ切れたかのような明るい表情で見上げて呟いた。

 太陽はすっかりと南天に上がっていた。アラミスは澄んだ青空を眩しそうに、帽子を被り直して職場へと走って行ったのだった。



                                      Fin


後書き
超がつくほど久しぶりのオンライン用新作です(吐血)
今回はロマサガでは無いです、昔から好きだった「アニメ三銃士」ですw
好きなものは書けということで、ジャンルを増やして書くことにしました。お陰さまでかなり早い時間で書き上がりました、これで自信を持ってロマサガMSへ行けます!この話を書きながら聞いていたCDは・・・ロマサガMSはモチロンのことでFFZのサントラも良く掛けてました。ドラクエ[もよく聴いていましたな。スクエニの音楽は質が高いのでいつも重宝しております♪
 作中最後のアラミスに言わせたアトスのセリフですが、コレは・・・9月14日発売のアレのプロモムービーを見てて入れたくなりましたwアニ三は・・・何だかFF色とDQ色が出てきそうな予感ですが宜しくです。




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