死ぬ前に絶叫を上げておけ! グレート・ドッキリショー 2




 見せ物小屋を出た、その日の晩。
深夜、静まり返ったファルスの街に。

    カーン カーン カーン

 何処からとも無く何かを叩く甲高い音が響き渡り、嫌でも聞こえて煩くっなって眠れない。
「ちょっと、なんなのよ。 この音はぁ!!」
ノーラは、日中の疲れと伴に怒りをにじませながら、目を覚ますなり早々怒鳴るのだった。
「そうね、何の音なのかしら?」
 ウンディーネも、眠たそうな表情で返事をする。

    シクシクシク・・・・・

 風に乗って泣き声が聞こえて来る。
「私は、こっちの泣き声の方が気になるわ」
 カタリナは、泣き声に疑問を抱いていた。

    シクシクシク・・・・・
「そうね。 行って見ましょう」
 ウンディーネもカタリナに頷き宿屋を一時出るための準備を始めた。宿をそっと出た時に、ハーマン。
「お前ら、揃って何処に行くんだ?」
 汗を拭いながら怪訝そうに、声を掛けてきた。
「あら、ハーマン。 寝ていなかったの?」ウンディーネ。
「どうしたの? そんなに汗をかいて」続いてノーラ。
「泣き声が、風に乗って聞こえてきたから声の主を探しにいくのよ」最後にカタリナが答えた。
「え〜、私は見学です♪ ベェヒョッ!」
 詩人は自慢のフィドルを響かせながら、いらない事を自慢げに答えてノーラに殴られた。
「今は深夜よ。 静かにしなさい!」
 カタリナも、詩人に注意をする始末だ。
「さ、とにかく泣き声の主を探しましょう!」
 カタリナ達はさっさと宿屋を後にして、街の郊外に向かって行った。


 泣き声に呼ばれて向かった先には、何と見せ物小屋だった。
「ここにいるのね」
 カタリナがそう呟いて入っていく。
「人が来る前にさっさと調べましょう」
 ウンディーネも頷きながら、中に入って行った。

 泣き声のするテントに向かう途中、東側の赤いテントから不気味な唸り声がして不意に覗いてしまった。そこには、スライム系と思えるモンスター“ソウルサッカー”が籠からヌベヌベと滲み出てきて襲い掛かってきた!
「仕方ないわね。 すぐに倒しましょう!」
 カタリナたちも陣形ワールウインドに組み、戦闘が始まった。詩人は、そこら辺に落ちている石を投げて囮にとなり、走ってノーラの元に誘導し彼女の足元に滑り込んだ。ノーラはゴールデンバットをホームランバッターの如く構えて、ソウルサッカーの飛んでくる位置を見据えて『もらったー!!』という声とともに大スイングをした。
 かっ飛ばされたソウルサッカーは、打たれた部分が潰れたまま違う方向に飛んでいく。ノーラは、襲ってきたモンスターの方向を変えさせることに成功した。その隙にウンディーネがサンダークラップで攻撃をし、ハーマンがソーンバインドで絡め取る。
 そして、陣形の先頭に立つカタリナが、大剣フランベルジュを正眼に構えて狙いを定めていた。気合いを込めた掛け声と同時にソウルサッカーに走りこみ『地擦り残月』を打ち込む。
 背後に周った隙に、半回転をして振り向き際、さらに一歩を踏み込んだ‘逆風の太刀’を浴びせて大ダメージを与えた事により、勝利を収めた。
「ふ〜、さすがカタリナね。 バットだとスライム形は、ダメージ与えられないからそこが辛いのよね」
 ノーラはカタリナを賞賛しながら、棍棒の使い勝手を語るのだった。
「先ほどの戦闘で、人がここに来ないとは限らないわ。 早く先に行きましょう」
 ウンディーネも会話に加わりたい所だが、先を促した。

 やってきたのは北側にある青いテントだった。
泣き声が一段と強く聞こえてくる。中に入っていくと、籠に中で泣いている、茶髪を三つ編みで纏めている可愛らしい妖精の姿があった。思わずカタリナは。
「可哀想に、すぐに助けてあげるわ」
 そう言っている間に籠を開けた途端、妖精が泣きながら飛び出して、そのまま去ってしまった。一部始終を眺めていた一行は、言葉を出すことなく無言で立ち尽くしてしまった。
 だが、詩人がへっぽこな新曲を歌おうとする気配を察知したカタリナとノーラが、詩人のマントを引き摺ってテントを後にし、ウンディーネも出て行った。
 それを見ていたハーマンは、冷めた表情で『けっ、下らん』と捨てゼリフを吐き捨てる。そして、おもむろに手にしていた物体を何もいない籠に投げ込みテントを立ち去った。


 ―――そして、翌朝。
朝日が、一日の始まりを告げる光を解き放ち、小鳥達が囀る森付近にある見せ物小屋から。
「ギャアァァァァァァァッッ――――――!!!!!!」
 見せ物小屋の職員が、この世のモノとは思えない凄まじいい絶叫を上げていた。東側にある赤いテントにいたソウルサッカーが、死体で転がっていたのだ。それも、見るも無残に剣か何かで滅多斬りにされた上、術らしきものによるダメージの損傷の痕も残っていた。
「ひぎゃぁぁぁっ――――!!」
 死体からヌルッと出てきた体液を、じっと見てしまった職員が腰を抜かして更なる絶叫を上げた。

 一方、妖精ちゃんがいた小屋の中では。
「で、出たぁ〜! オバケェェーーッ!!」
 籠の中にあったのは、妖精ちゃんではなく“呪いのワラ人形”ならぬ“呪いのワラ魚”だった。ワラで包まれた魚には立派な牙が生えており、生々しく釘があちこちに深々と打たれている。そこから生臭い腐臭を漂わせながら青黒い液体が流れ出ていた。どうやら、ワラの中に土魚の死体が入っていたようだ。

 そう昨夜、ハーマンが冷めた表情で投げ込んだ物体とは・・・。
四魔貴族の一人である、魔海侯フォルネウスに片足と生気を奪われた、恨み辛みの産物“呪いのワラ魚”だったのだ。ワラの中身を見てしまった若い職員は、再びこの世のモノとは思えない大絶叫を上げたのだった。



 その頃、温海地方にあるアケ村の南方に広がるジャングルの何処かにある妖精の村にて・・・
「ティアナお姉ちゃーん!」
 茶髪の妖精が、姉の名を呼びながら赤い服の妖精に泣きながら抱きついた。
「エリス! 今まで何処にっていたのよ! ずっと心配していたのよ」
 赤い服の妖精ティアナは、帰って来るなり抱きついてきた妹を優しく叱るのだった。
「うぇ〜ん。風に流されて大陸で人間に捕まって、ずっと見せ物小屋の籠に入れられていて怖かったよー」
 妖精エリスは泣きながら、怒りながらも心配している姉のティアナに訴えた。
「・・・そう。 でも、どうやってその籠から逃げ出せたの?」ティアナは、ふと疑問に思ったことを口にした。
「うん、綺麗なお姉さんと仲間の人達が助けてくれたの」エリスが答え。
 それで、お礼はちゃんと言ったの?」姉が言葉を続けた。
「あーっ!! 忘れちゃった。 エヘヘ・・・」エリスは、舌を出しながら照れ笑いを浮かべる。
「んもう! エリスったら、相変わらずそそっかしいんだから。もし、助けてくれた人達がここに立ち寄った時には、ちゃんとお礼を言うのよ」
 姉に叱られたエリスは『はーい、お姉ちゃん』と言って、長いこと帰りたかった故郷の村を飛び回りに家を飛び出して行った。


 カタリナ一行は、早朝ファルス港から朝一の連絡船でピドナを目指しファルスの街を離れた。
昨日、詩人による歌いかけの新曲の続きが途切れた歌詞。『潰れるのは〜♪ 時間の問題〜♪』がまさに、こうも早く現実のものになろうとしている事に誰もが知るはずも無かった。

 波間で朝日に反射して煌く光が踊っている。
陽光のダンスを見つめながら、潮風に髪をなびかせているカタリナは。
「今日中に、ピドナに着くわね。 マスカレイドをこの手に・・・、ミカエル様」
 胸に片手を握りしめながら静かに、ここにはいない誰かへ報告するように呟いた。目指す街で、これから自分達が起こそうとする計画に身構えながらも、一時の船旅を楽しむ事に決めた彼女が振り返った時には、仲間達と目が合い爽やかに朝日に負けないくらい輝いた微笑みを返していた。

 カタリナ達がファルスの街を後にして以来。
あの『グレート・フェイク・ショー』の見せ物小屋が、姿を現さなくなった事は言うまでもなかった・・・・・・・。


〜おしまい〜




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