死ぬ前に絶叫を上げておけ! グレート・ドッキリショー 1



 ここは、メッサーナ王国の首都ピドナに次ぐ商業都市のファルスである。
つい先ほど、ピドナを目指すために立ち寄ってこの街に到着したはかりの冒険者達がいた。これまでに何度も街を訪れたのだが、街の入り口付近に見慣れぬ派手な看板があり、それを目にしていた。
「なになに。
『        大自然の脅威!!!
       死ぬ前に一度見ておけ!
           この先すぐ
       グレート・フェイク・ショー     」
ってなにこれ。 カタリナ、知ってたぁ?」
 長い髪に頭をバンダナで巻いた逞しい女性が、冒険者の中心格になる件の銀髪で細身の女性に声を掛けた。
「知らないわよ、ノーラ。 それよりも私たちは、一刻も早くピドナに行かなければいけないのよ」
 カタリナは、素っ気無く答えた。
ピドナへ急ぐ〜♪ 剣士カタリナ〜♪
立ちはだかるは〜♪ ファルスの街〜♪
その名も〜♪ グレート・フェイク・ショー〜♪
ルル・・る・・・あ゙げごぶべひょっ!!」
 詩人の喉下にカタリナのストレートパンチが、連続で良い音を立ててヒットした。

詩人は勝手に新曲を歌い始めて、カタリナに殴られたのだ。
「ちょっと。 もう、いい加減にしてよ! 恥かしいわ・・・。 こんな所をもし、ミカエル様に・・ミカエル様に、見られた時には・・・ハァ〜」
 カタリナは、頬を赤らめながら白い手で頬を包み込む。彼女は、ここにいない主君であり長い間片思いを続けている相手の名を呼びながら恥かしそうに最後の呟きとタメ息を吐いていた。幸い皆には、聞こえなかったようだ。

 一人で恥ずかしがっているカタリナを他所に、詩人を両脇に挟んだノーラと艶やかな美人術士のウンディーネが詩人の頬を、それぞれ杖を取り出して迫っていた。
「この、ヘボ詩人! いい加減にそのド下手な詩は辞めてよね。 私の自信作、このゴールデンバットで、あんたの顎をかっ飛ばすわよっ!!」
 ノーラ、肉迫した表情で詩人の右頬に自慢のゴールデンバットを押し付けてこう言った。
「ノーラがかっ飛ばしたその顎は、私の生命の杖で治してさし上げますわ♪」
 温厚な玄武術士だけあって回復をしてくれそうだが、詩人の左頬を力強く押し付けている辺りには、裏がありそうだ。詩人が何か言おうとした矢先に。
「治した顎にはまた、ノーラご自慢のゴールデンバットでかっ飛ばして下さりますわ♪」
 ウンディーネ、この上も無くニッコリと微笑みながら言葉を続けたのだった。
よく考えてみると・・・。天国と地獄の連鎖が永遠に続く、コワイ一言である。

「けっ、くだらん」
 義足で隻眼、見るからに海の男ハーマンは、詩人を挟んだやり取りをさもつまらなそうに眺めながら言っていた。その一言を耳にしたノーラは。
「なんだよ爺さん。 その言いぐさは! ヘボ詩人の詩には、ウンザリしていたんだろ」
 すでにもう返事を返していた。
「詩人のヘボ詩もそうだが、看板の催し物も下らんと言ってんだよ」
 ハーマンは、やる事全てが下らんと言っているみたいだ。
「あら、それにしてもハーマン。 今日の貴方は生臭いわね。いくら海の男とは言え、生魚をそのまま食べると体に良くないわよ」
 ウンディーネは、不信そうにハーマンを見て言った。
「何故俺が・・・、生魚をまんま食わなきゃいけねーんだぁ?!けっ、おまえらには関係ねぇことだ」
 彼は素っ気無く答えたのだった。
「ねぇ、ハーマン。 何もかもを、くだらないといつも言っているけれど。貴方も少しは、みんなと一緒に行動しましょうよ」
 カタリナは、優しく微笑みながらハーマンをたしなめた。
「ちっ、しゃーねぇーな。 何処にでも着いて行ってやるよ」
 ハーマンは、カタリナの彼を思いやる口調に説得されたようだ。
「じゃあ、どうするカタリナ? このグレート・フェイク・ショーって、催し物を見に行ってみる?」
 ノーラは、パーティのリーダーたるカタリナに問い掛けた。
「そうね。 本当は、ピドナに急いで行かなければならないのだけれど。滅多に見れるようなモノが、あるのかしらね。 少し、見に行ってみましょう!」
 カタリナは、仲間達に微笑みながら答えた。
カタリナ一行はショーを見に行く事が決まり、看板の指し示す方向に足を運び出した。


 街の郊外にあるグレート・フェイク・ショーの小屋の回りは、人の出入りが多くごった返していた。
「わぁ〜、人だらけね」
 見せ物小屋までやってきたカタリナ一行が、最初に口から出た言葉である。
「はいはい、美人さんをお連れのお客さん方。 キチンと列に並んで下さいね。 他のお客さんも、列に並んでいます。 横入りはよして下さいね。ちょっと。 そこに立っているツアーの人たち、貴方達もです!」
 見せ物小屋の職員らしき男が、モミ手をするような目つきで集まってくる客達に、いかにも勿体ぶった慇懃無礼な命令口調で声を掛けている。
「なんなのあいつ。 嫌味たらしく聞こえるわ」
 普段穏やかなウンディーネなのだが、職員の態度の悪さに腹を立てているようだ。
「確かに。 あんな偉そうな態度だと、来る客に嫌われても仕方ないわね。うちの工房は、お客様に対してキチンと対応をしているわよ」
 ノーラもウンディーネの言葉に頷いて、職員の対応の悪さに批評をするのだった。
見せ物小屋〜♪ 職員の対応悪し〜♪
潰れるのも〜♪ じか・・・ブベッバァッ!!」
 カタリナは、とっさに詩人の頬を連打して新曲を食い止めた。
「バカバカ!! ヘボ詩人!! 何でこんな時にぃ、こんな時にぃ〜。 何で変な詩を歌うのよぉ!!」
 カタリナ、恥かしそうに小声で詩人の首を締めて揺さぶりながら抗議をする。その周囲に並んでいる人波の中には、詩人の新曲を聞いて殴られる様を眺めている者もいる。その中には、『良くぞ言った!』と言う者や“ピュー”と口笛を吹きエールを送る人もいた。
 だが、ロアーヌ屈指の名門貴族の出であるカタリナは、恥かしそうにしていた為、彼らのエールは届かなかったようだ。


 そして、ようやく順番が廻って来た。
「お一人様、10オーラムです」
 受付の若い兄ちゃんが、慇懃無礼な口調で“払わないなら帰れよ”という目つきで言った。入り口前のカウンターの言葉を聞き返し、入場料の金額を聞いて愕然とするカタリナ一行。
「けっ、ふざけるなっ! 宿屋の10倍じゃねぇか!! だから、くだらねぇと言ってんだよ!!」
 ハーマン、怒りを顕わに怒鳴った。
「う〜ん、内容次第ね」
 さすがのカタリナも苦笑いを浮かべながら、ハーマンの怒鳴るダミ声に対してこう答えるしかなかった。
「職員の対応も悪いし、入場料もバカ高いし、やってらんないわね」
 ノーラも、ハーマンの怒りに頷きながら辛辣な事を呆れて平然と言うのだった。
「詩人さん? 歌ってはダメよ」ウンディ−ネは、新曲を歌おうとした詩人へ優しく釘を打った。


 入場して西側にあるの赤色のテントに入ったが・・・。
どこもかしこも人の頭だけしか見えずに只、『おおー!』とか、『すごーい!』とかと言うような声しか聞こえなく、後ろから押されて暑苦しくなってきた。
 だが、職員が。
「はい、そこまで。 テントから出て行って下さい」
そう言われてしまい、テントから追い出されてしまった。

 今度は、東側にある赤色のテントに入ったのだが・・・
またしても、人だかりであるが、『ギュルルルルゥ〜』という気色悪い唸り声が聞こえてくる。『うげー』とか『ゲロゲロ』と言う声があちこちから聞こえてくるのに、押されて揉まれてしまう。
 結局、気持ち悪い生き物も見れぬまま、またしても。
「はい、そこまで。 テントから出て行って下さい」
 言われてさっさとテントから追い出されてしまった。そして、追い討ちに木陰で蹲っている若い男性が『うう、気持ち悪い・・・・・』と吐いている所を運悪く見てしまった。

 気持ち悪いモノを生々しく見てしまったカタリナ一行は、最後に残った北側にある青色のテントに入った。
やっぱり、人だかりで何がいるのか判らなかったのだが。『これ、妖精か?』とか『カワイイー』と言う声と伴に籠を激しく揺さぶる音が聞こえて・・・。
 「やめてー!!」という泣き声が聞こえてきた。『おおー、しゃべった』とざわめきがさらに聞こえて来る。カタリナたちは人を掻き分けて前に進もうとしたが、あちこちから押されて揉まれて結局、向かうことが出来ずに。
 こっちのテントでも、また。
「はい、そこまで。 テントから出て行って下さい」職員が言って、テントから追い出されてしまった。

全テントを見終わった一行は・・・。
「何なのよ、ここは! 何も見れずに50オーラムも分捕られたワケ?!」
 ノーラは、怒りを顕わに吐き捨てたのだった。
結局、何も見れずに見せ物小屋をあとにしたカタリナ一行だった。




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