Really?ーマジですか〜? アトス逮捕されない


 ―――コンコンコン・・・。
ドアと叩く小さな音が聞こえてきた。その小さな音に反応した黒髪で落ち着いて雰囲気の青年アトスと黒い巻き毛
の大男ポルトスの二人は身構えたのだが。
「すみませーん、誰か居ませんか?」
 小さな女の子の声が聞こえてきた。そこで二人の元銃士は、警戒を解いて大男がアトスより先に動いたのだっ
た。ポルトスがドアを開けたところ、小さな女の子が立っていた。最近下町に引っ越してきてからジャンが知り合っ
たコレットという名の少女である。少し前に、コレットはミレディーから預かった書類を家の中の人に渡して欲しい
と頼まれたのだった。
「どうしたんだい、お譲ちゃん」
 ポルトスは普段と変わり無い口調と笑顔でニッコリと迎え入れた。ポルトスの笑顔にコレットは緊張が解れたよ
うで。
「はい、知らないお姉さんからのお使いでね、この手紙を渡してって頼まれたの。 それじゃあ私は帰るね、バイ
バイ」
 ポルトスに件の手紙を渡したコレットは、振り返りながら手を振りつつ早々に去ってしまった。流石のミレディー
でも、手渡した相手がたまたま、そうたまたま。ニッコリと笑顔で迎えたポルトスだったことは知る由もなかった。

 一部始終を眺めていたアトスは大男へ近寄り。
「何だったんだ、ポルトス?」
 万が一のために裏口を警戒していたアトスが、小さな来客の後姿に視線を追いながら声を掛けた。
「これは一体なんだ?」書類の中身が気になるアトスに対して。
「さぁ、俺も良く判らん。 ・・・・・・中を見てもなぁ〜それより腹減った。 こんな紙切れなんか後にしよう!」
 どうやら書類の中身には、全く関心の無いポルトスだった。
「しょうがない奴だな、では食事の後に見せてくれないか?」アトスは渋々とポルトスにそう提案をした。
「おっ、さすがはアトス! 話が早いねぇ♪ じゃあ、グルメの俺が腕によりをかけた朝食を♪」
 ご機嫌のポルトスは、手紙を懐にしまって早速朝食に取り掛りに席を立った。
「・・・・・・ああ、『自称グルメ』で無いことを期待しているよ」
 そこへアトスは、冷笑を浮かべて意地の悪い一言を添えたのだった。
「またまたぁ〜、その冷血漢ぶりの余裕な笑みって・・・・・・まるで俺が、料理の途中で鍋の中身を爆発させるよう
な期待でもしてるのかなぁ?」ポルトスは何となく親友の言いそうなことを当てずっぽうで言ってみる。
「言葉通りだ、爆発しない方に50リーブル賭けるよ」にべもなくサラリと即答したアトスだった。
「・・・・・それじゃぁ俺は・・・自分が爆発する方に賭けろってのか?!」
 そう言いながらポルトスは、どうやって火薬を入れるのか?など、一瞬だが物騒なことを思い浮かべた。だが、
『俺様はグルメだ!』と常々豪語しているプライドから一蹴させた。
「ハハハ・・・冗談だよ。 急いで食事を済ませて件の書類を調べたい」
 親友の様子を見透かしているようだ。アトスは改めた口調で用件を切り出したが。しかし、表情はそのままだが
彼の目は笑っていなかった。ポルトスも親友のただならぬ視線に無意識だが背筋を伸ばして『お、おう』と言うなり
さっさと台所へ向かって行ったのだった。


 それから少し時間が経過した頃―――。
グルメ派の食通ポルトスが腕によりをかけて作った朝食は、小さなテーブルの上にところ狭しと並べられていた。
「・・・・・・朝食から豪勢過ぎじゃないか?」
 『夕食のご馳走』と呼べるような食卓なら納得出来るのだが、朝っぱらからこんなに食べても良いのだろう
か・・・?という疑問の自問自答を抱くアトスだった。
「まあまあ、アトス。 そんな硬いことを言うなよ♪ 少ない材料で作ったんだしさ」
 おくびれた様子もなくポルトスは、屈託の無い表情で親友に返事を返した。
「仕方が無いなぁ、朝食でこんなに多く食べること自体、俺には無いことだが君の手料理を頂くよ」
 アトスは、友に苦笑を浮かべながら食事前の祈りを始めたのだった。ポルトスも年上の親友に続いて祈りを捧
げてから少し遅い朝食を食べ始めた。
 ポルトスは、とにかく食べる速度が速く一皿をさっさと平らげている。しかし向かいのアトスは、長年荒くれが多く
集まる銃士隊に身を置きながらも、食事などは育ちの良さを拭えず身に染みた名門貴族の作法に沿って優雅に
食事をしていた。だが平和な遅い朝食も、束の間のことだった、

 ―――突然家の外が騒がしくなった。
食事中の二人だったが、外の様子にアトスは怪訝な表情に変える。そして二人がドアに視線を移したときのこと
だった。
ドガッ!
侵入者がドアを蹴破って入って来るなり、早々と。
「アトス! ポルトス! 君たちを国家反逆罪の疑いで逮捕する!!」
 昨日、銃士隊の隊長職に就いたアラミスが怒鳴りながら家屋に入ってきたのだったが、しかし……。
「やぁ、アラミス。 元気かぁ〜?」
 お食事中で至極ご機嫌なポルトスが、のほほんと屈託の無い笑顔で迎え入れたのだった。厳しい表情で挑んだ
アラミスは、予想外の反応で呆気に取られてしまい。
「あ・・ああ。 元気だ…君は、相変わらずだなぁ……」そう答えるだけでも精一杯だった。
 そんな二人を交互に見ていたアトスは。
「アラミス、顔色が良くないな。 寝られなかったのか?」
 どうやら、アラミスの様子が気になって口を挟んだようだった。
「うっ、(そこまで判るのか?!)そ、そうか? そんな風に見えるのか?」
 出だしのポルトスでペースを崩されたアラミスは、そのまま二人に話を合わせざる得なくなったが、鋭いアトスへ
強がってみせた。
「何だよ、湿気たツラして・・そうか! お前も腹減ってんだろう? そうだろう? え? 言ってみろよぉ〜?」
 食事に目聡いポルトスが、アラミスへ矢継ぎ早にしつこく詰め寄って来る。
「お、おい! 俺はだなぁ!!」
 何だか場の雰囲気がおかしくなって来ている事に、警戒をしていたアラミスは語気を荒げるのだが。
「やせ我慢はやめろよ〜、お前もっと痩せるぞ。 俺みたいなカッコいい体型にはなれんぞ」
 ポルトスがアラミスへ傍から見てもメチャクチャな持論を炸裂させたところへ。
「いや、ポルトス。 間違っているのは君だ。 君は朝から少々…以上に食べ過ぎだ。 痩せる努力ぐらいはしな
いと、いつかは熊になるぞ」
 横からアトスが、意地の悪そうな笑みを浮かべて余計なツッコミを入れたのだった。
「ああそうだとも、アトスの言うとおりだ! このまま食い意地を張っていたらいつかは熊になるだろうさ」
 アトスの後にくっ付いてアラミスも意地悪く追い討ちをかけた。
「クマァ〜? 貧弱そうで失礼な! グリズリーって言え!!」
 アトスのクマ発言に、凶暴な反論を返したポルトスだった。
「グ・・グリズリィ〜・・・・・・?」予想外の反撃に、アラミスの目が点になる。
「おいおい・・・・・・寄りにもよって人食い熊かぁ〜。 君にとってのクマは貧弱ということか・・・」
 笑いをこらえてアトスが、ツッコミ返しをした。
「笑うなよ、悪いか」
最後には大笑いをするアトスへもごもごと言い返すのだが、とうとうその声音も小さくなってしまった。

 それから数分後。乱入をしたアラミスは、結局二人の雰囲気に圧されて一緒に朝食を取ることになってしまっ
た。最初は無言の食事だったが、ポルトスが何故ここに来たのかを聞いてきた。そしてようやく、話の本題に入れ
たアラミスは逮捕に来た用件を問質した。
「ところで、潜水艦の設計図を持っているはずだが? 」
「何だそりゃあ? !」と、間の抜けた声でポルトス。
「・・・って、おいっ!!」書類とアラミスの背景を悟ったアトスは、表情を硬くするのだが、突然。
「・・・あぁぁぁーーーーーーっっっ!!!!!」
 アトスのただならぬ表情に、ポルトスはムンクの絶叫宜しく半狂乱な絶叫を突然上げた。その声は家屋を突き
抜けて近所中に響いた。余りの大声に、アトスとアラミスは耳を塞いでいたのだった。
「「いきなり叫ぶなぁーーーーっっっ!!!!!」」怒鳴り返した二人の怒号はハモっていた。
「・・・で、どうしたんだ? 言ってみろ!」けれどすぐ、正気に戻ったアトスが尋問を始めた。
「アハハハハハ・・・・見ても判らないからさぁ、さっきスープを作る時、火を熾すのに燃える物が無かったから・・・一
緒に燃しちゃった」
 開き直ったポルトスは、えへへと笑って誤魔化す様な口調で答えたのだった。
「「えええええぇぇぇーーーーーっっ!!!!」」
 予想外の返答に、アトスとアラミスはまたもや声をハモらせる。
「・・・それは本当なのか? 嘘だろう・・・信じられん」国のそれも国家機密の書類を、あっさりと燃やした相手にし
つこく問質すアトス。
「マジですか? そんな話は聞いたことがないぞ!!」逮捕しに来たアラミスも、証拠になる書類がすでに灰となっ
た事実を知って脱力した。
「うん、聞かなくても俺が今やったからなぁ・・・」
 呑気に答えるポルトスを横目でアトスは内心(伝説を作る男だよ、君は・・・)そう呟きながら、アラミスには気の
毒だが大笑いを抑えることで精一杯になっていた。
「えっ、じゃぁ証拠になるモンが灰になったら俺達は関係ないよなぁ、アトス?」
 どうでも良い事をアトスに振るお気楽なポルトス。
「・・・・・・確かにそうなるな」
 突然話を振られて思案に耽るアトスは、しみじみとした口調でそう答えた。
「ちょっと待て!!」予想外の展開にアラミスは、慌てる。
「すまない、アラミス。 灰になったものは戻すことが出来ない」
 アトスの言葉を聞いて安心をしたポルトスは、しんみりとした口調で自分が撒いた種を棚に置いてそう言い切っ
てしまった。
「無責任なことを言うなぁ!!」投げやりに怒鳴り返したアラミスを慰めるかのように。
「・・・この仕事は失敗に終わるが。 それを命じたヤツが悔しがる姿を拝めないのは残念だな」
 アトスがまた意地の悪いことをボソリと呟いた。アラミスは彼の言葉に、今朝方のマンソンが、顔を赤くして悔し
がる姿を思い浮かべてほくそ笑む。
「アトス、僕はその悔しがる姿でも見てくるとするよ!」
 どうやらアラミスなりに、マンソンへ一泡吹かせることを思いついたようだ。
「そうか君のことだ、何か思いついたのだろう? 嫌味なことを追加するなら手を貸すぞ?」
 開き直ったアラミスへアトスは、助言を申し出た。彼の表情は取り分け普段、穏やかな誠実さを見せるその瞳
が底意地の悪い光と笑みを浮かべていた。それはまるで・・・悪党のような冷笑だった。
 流石のアラミスでも、親友である彼の冷笑に背筋が凍る感覚を覚えた。それは今後の任務に支障が出ると悟
り、有難い申し出を断ったのだった。
「では諸君。 奴らの作戦は失敗に終わった、俺はここに居ても仕方が無いから帰るとするよ」
 爽やかな笑顔で二人の元銃士へ別れを告げてダルタニャンが居候する借家から立ち去ったのだった。
「・・・・・・一体何だったんだどうな、アラミスの奴? 」
 きょとんとした表情で、アラミスの後姿を見送ったポルトスはそう呟いた。
「概、ミレディーたちの作戦が失敗した反応が楽しみで戻ったのだろう」
 同じく、勢い良く出て行ったアラミスを見送るように、親友の疑問にそう答えたアトスだった。ダルタニャンの居な
い間に起きた珍騒動にアトスは、ポルトスの食欲で難を乗り切ったことに複雑な面持ちで天を仰いだのだが。そ
の親友が立ち去った友を見送った後もすぐ、ガツガツと朝食を食べている光景を間近で見てしまい、溜息を漏ら
したのだった。


 それから数時間後―――マンソンの屋敷で鉄の仮面を被った黒装束の男と暗い色合いのドレスを身に纏った
美女が密会をしていた。仮面の男が妖艶な眼差しの中に苛立ちを隠しきれていない相棒の女性へ声を掛けた。
「・・・ミレディー、アラミスがアトスとポルトスの逮捕に失敗したそうだな」鉄仮面が、苦々しげに呟いた。
「・・・・・・ええ、そうよ。 何も知らないポルトスが、ワナに使ったあの書類を燃したそうよ」
 溜息混じりにミレディーもまた、疲れきった表情で答えたのだった。
「で、マンソンは?」彼女へその後を淡々と尋ねる鉄仮面。
「悔しがって頭を真っ赤にしていたわ。 アラミスが『まるで茹蛸のようだ』と大声で笑っていたわ」
 更に深い溜息と共に、脱力しきった声音で答えた。
「なんて事だ・・・アレは潜水艦の貴重な設計図だぞ!! 見て分からんのかぁ!!」
 鉄仮面はまるでプライドを傷つけられたかのように叫びだした。
「・・・・・・つまり、潜水艦の設計図何てどうでも良くて、食事の方がよっぽど大事だったということよ。 ポルトスにと
ってはね、ハァ〜」
 溜息混じりにミレディーは、自称グルメのポルトスの純粋で底なしの食欲に頭を抱えた。
「恐るべし、ポルトス」煮え切らない声音で鉄仮面はそれだけ呟いたのだった。


 ―――もしも、ポルトスが受け取りその設計図の主導権を握ったままの場合。アトスが逮捕されないとこんな珍
騒動になりそうである。その後の展開はモチロン、ズレ放題間違いなかっただろう。



                                         おしまいv



後書き
 前作のアトアラを書いている途中で、お笑い系への発作が起きました。
お陰で・・・短時間で新作の完成となりましたv
9月といえば、アトス様のお誕生日v なので、お誕生日記念にしちゃいましたw
やぱりうちのアトス様、お笑い系だと相当の悪党になってまふ(吐血)
シリアスだとまたMy設定がちゃいますが、短編だと次は31話辺りを書きたいです♪





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