新時代の幕開け


 聖王歴319年。
とある1日のことである。この時、歴史を揺るがす事件が起こった。

 遥か東方北部地域に存在していた『魔王の玄室』における激戦から数ヶ月後。かつてアビスの世界から生還した冒険者達が再び集い、世界に平和を取り戻してから月日が経過した世界である。ここは、温海地方アケ村より南部に広がるジャングル地帯である。熱帯気候により、湿度が高いジャングルに木々は太陽が傾き始めた午後。スコールと呼ばれる一時的な降雨により一層、身に着けている衣服を余計不快にさせる程の湿らせた空気を放っていた。その湿気に満ち溢れたジャングルの最奥を目指す人影が4つあった。

「・・・暑い・・・ジャングルってこんなに暑いのか・・・」
 額に汗をびっしょりと滲ませながらぼやく黒髪の青年。
「ねぇー、ブラッドレーさん。 もうちょっと静かに歩いて下さりません?」
 ブラッドレーと呼ばれた黒髪の青年へ、ウンザリとした表情でたしなめる青い髪の女性。
「・・・ハハハッ、ウンディーネ、ブラッドレーさんよ。 お前ら情けねぇぞ、俺様は朱鳥術随一の使い手だ、こんな暑さ屁にもならん!」
 赤毛の青年が、振り返り踏ん反り返るような口調で二人に言ったのだった。だがそのボルカノの額には、汗がぐっしょりと滲み出ていて前髪がくっ付いていたのだった。
「ちょーっと、ボルカノッ!! 前を歩くあんたが一番暑苦しいから余計暑いんじゃないよぉっ!! あんたの格好・・・奴らの仲間入り即決定よ!」
 ウンディーネと呼ばれた女性は、前方を歩く赤毛で赤い紳士服を几帳面に着崩れなく着こなしているボルカノへ怒鳴りつけたのだった。
「うっせーなっ!! これは俺のポリシーだぁ!! お前につべこべ言われる筋合いはねぇ!! ・・・って奴らの仲間入りぃ〜冗談じゃねぇ!! あいつらと一緒にするな!!!」
 奴らと一緒にされたボルカノは怒りを顕わにして怒鳴り返した。
「・・・クソ暑い中でよく、ケンカができるモンだな・・・ハァ〜」
 二人の口ケンカにウンザリとした表情でブラッドレーは汗を拭いながらぼやいたのだった。ソレを耳にしたボルカノ。
「ところで、・・・なんでお前がミカエルの代わりなんだぁ?」
 赤いハンカチで汗を拭い前髪を掻き分けながら、ふとした疑問を口にした。
「あぁ、その事だが。 殿・・いや陛下は、やっと結婚されたばかりのカタリナ様に半年以上も前の事だが。 宮殿をどうやってか判らねぇが、長期間抜け出していた事がバレて外出禁止を喰らったそうだ。 ・・・で、俺様が殿の代理でやって来た訳だ」
 どこか遠くを見つめる黒い瞳には、現在宮殿でヒマを持て余しているであろう主君ミカエルの姿を思い浮かべてしまう。
 ――んにしても、このジャングルの暑さ・・・殿は平然とした表情で歩いていたのか?黒髪の青年は、内心の呟きを漏らしていたが、そこへ。
「ねぇ、もっと早く歩いてよ! このままだと日が暮れちゃうよ〜」
 彼らの先頭を飛ぶ妖精のエリスが後ろを振り返るなりせき立てたのだった。
「わかったわ、エリス。 この赤い服が暑苦しいから余計遅くなってごめんね」
 ウンディーネがエリスに謝りながら速度を早めた。
「赤い服と余計はなんだぁ!! お前こそこんな長いスカートと黒マントをズルズルと引き摺るん暑苦しい格好じゃねぇか!」ボルカノが即言い返した。
「うるさいっわねぇ! これは玄武術士としての最低限のローブよ! あんたみたいな朱鳥術士はローブじゃなく何でタダの紳士服なの!」ウンディーネが応酬に出た。

 と、そこへ・・・。
「だぁーーー!!! いい加減にせいやぁっ!!!! ミカエル様は、どんな所でもケンカし捲くる術士と一緒に旅をしていたのかぁ?!」
 北と南に二分するモウゼスの街の実権を握っている二人の術士の口ゲンカを聞かされ続けて来たロアーヌ王国軍将軍職に就くブラッドレーは半ばキレかかって怒鳴り散らしたのだった。
「・・・あの二人は、ずっと前からそうなのよ。 今更気にしてもしょうがないわ」
 キレたブラッドレーにエリスは、夢の欠片も無い囁きで仕方のないと言うような口調で肩を竦めた。
「・・・・・・殿の命令で会った後からずっとだ・・・・・」無愛想な表情で答え。
「でも、あの二人の飽きない口ケンカのお陰で暑さで意識が朦朧とするよりマシだと思うわよ」
 悪戯っぽい表情でエリスが言葉を続けた。 とその時、木々の間から光が差し込んできた。

「なぁ、あの先には?」
 ブラッドレーが、不思議そうな表情で前方を示しながらエリスへ疑問を問うた。
「そう、あそこが目的地よ」
 彼らが目指す目的に到着したのだった。彼らの目の前には、地面が陥没した巨大なクレーターが広がっていた。だが、先ほどのスコールで大きな水溜りができていた。
「・・・こりゃまた、アン時のまんま変わっちゃいねぇな〜」
 ピュ〜と口笛を吹きながらボルカノはクレーターを眺めていた。
「あんたの大事な研究材料は、何も残らず半年以上経った今もクレーターのみ、か」
 ウンディーネがボルカノの独り言に言葉を続けていた。
「俺様はミカエル様から、この大穴が現在どうなっているのかを調べて来いと命令を受けて派遣されたんだが、こいつはスゲー・・・」広大な光景に呆気に取られたブラッドレーへボルカノ。
「へっ、こいつは俺とあんたの上司で作った大穴だからな。 俺も多少は気になっていたが、ミカエルも気にしていたのか」最後の下りは赤毛の術士の独白に変わっていた。
「え、気にしていたの? 火術要塞が無くなって私や森に住む妖精や精霊、動植物たちはみんな喜んでいるのよ」エリスが二人にジャングルの様子を語ったところ。
「ええっ?! 火術要塞?・・・この大穴が、か?」
 エリスの言葉を疑うような視線で彼女と大穴を交互に目配りをするブラッドレーは言葉を続けた。
「一体、どうやって?」
「そいつは企業秘密だ」自慢気な表情でボルカノは即答した。

 ――ふん、あとでその爆弾をロアーヌへ売り込むつもりでしょ。魂胆、見え見えよ。
横目に冷めた表情で見ていたウンディーネは突っ込もうとしたが、余計な時間を考えてボルカノの真意を内心だけで留めたのだった。
 そこへ。
「このクレーターの跡は、南方にあるエルブール山脈へ登っても見ることができるわよ」
 エリスが唐突な言葉を告げる。
「上からも眺める事ができるの。 山に登ってどれくらいの規模か調べてみたら、次回のコングレスの時に必要な資料ができるわね。 これが終れば、私たちの仕事は終わりなのね」
 ウンディーネが、仕事の目的を二人に再確認させる意味合いで告げ。
「だが、今日はもう遅いな」
 ボルカノが日が掛けてきた太陽を指しながら視界が鬱蒼としてきたジャングルに視線を泳がせた。
「そうね、私たちの住む村で休むと良いわ。 明日から山へ登りましょう♪」
エリスが妖精たちの住む村へ案内をし、そして1日が終った。


 そして数日後。
エリスは姉のティアナにも同行してもらい、エルブール山脈でも登りやすい山の山頂まで到着した。そして5人は、広大なジャングルを見下ろしたのだった。
「・・・すげー、これがあのジャングルの上かよ!」
 ブラッドレーが興奮した表情で辺り一面に広がる緑の世界を一望して驚嘆したのだった。
「ええ! 驚いたわ、ジャングルを一望だなんて生まれて初めてのことだわ」
 吹き付ける風から髪を押さえつつウンディーネも緑に広がる地平線を眺めていた。
「・・・おっ、俺とミカエルで爆破した火術要塞跡のクレーターはあれか! ・・・意外とデカイな、エリス、アレはまた元の森に戻るのか?」クレーターを眺めながらボルカノはエリスに問い掛けた。
「うん、火術要塞が無くなって逆に新しい木々が生まれるなんて素敵だわ。 ね、ティアラ姉ちゃん!」
 エリスは姉に笑みを向けた。
「そうね、森の木々は喜んでいるわ・・・でも、不思議ね」ティアラが、途中から声を落とす。
「あら? 二人ともどうしたの?」
 妖精姉妹の会話が止まりかけて、心配そうな表情でウンディーネが声をかける。
「うん、ほらジャングルの反対方向ある南にはナジュ砂漠だけじゃない」
 ティアラが背後に広がる広大なナジュ砂漠へ振り返った。彼らが振り返った先には、太陽に照り付けられた黄金の砂地が遥か地平線の彼方まで広がっていた。
「・・・山を挟んで砂漠とジャングルとは極端な話だよな」
 ブラッドレーが、自然が創り出した造形に思わず呟いた。
「ねぇ、エリス。 時々、この砂漠の彼方から風に乗って森の木々や他の精霊達の歌が聞こえてこない?」
 ティアラが妹へ意外な言葉を告げる、それを聞いたエリスは遥か南の方向へ耳を傾けてみる。
「?! あ、本当だ。 お姉ちゃん・・・これって・・・?」エリスが再び顔を姉に向けるなり。
 二人の会話を静かに聞いていた3人が顔を見合わせる。
「なぁ、それって・・・つまり。 俺たちのいるこの世界には・・・」ブラッドレーの言葉が終らぬうちに。
「南の方角には、まだ未知なる大陸とかが存在しているって事なのかしら?」ウンディーネが続き。
「二人が僅かでもその声を聞いたんだ、確かだろう」ボルカノがシメの言葉で話を括った。


 彼らがジャングルで起こした騒ぎの事後処理の調査へ出向いたささやかな発見は、かつて共に旅をした仲間たちの耳へと伝わっていき。自分たちの知らない世界がまだあるという噂が人々へと広まって行った。
ある者は新天地を求めて。 
ある者は、噂を信じ未知なる冒険を求めて。 
南へと旅立つ者が多く現れ、いつしか大航海の時代へと世界が変わっていった。


 そして数年後。
ナジュ砂漠より遥か南方の海域を航海していた船団は、未知なる大陸を発見した。


 ―――それから20年。
時は聖王歴339年、新しい物語が始まる。



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今回はここへ後書きを

りらさんとサリュさんの次世代ネタが面白かったので便乗参加ですw 

 うちは、毎日連載の続きという形が可能なのでその方向で進めていく事にしました。
オーソドックスなアビスの復活的なネタは、使えない事情があります。 それに拘るのも何だしもあります。 やるんだったらワールドマップをいつも見る度に思っていた『南方には大陸が必ずあるはずだ、でないと赤道直下の気候が無いのはおかしい!』と考察をしてたのでそのまま使う事にしました。
新時代を生きる若き冒険者達を書く事ができるように頑張ります。

アケのジャングルを踏み台にしたのは、すでに火術要塞を吹っ飛ばしたシーンを書き上げた為です(殴) 忘れた頃に同人誌を発行すると思います(ぉぃ)
毎日連載がもっと進まないと次の話へリンクできない都合上、手直し状態でちまちまとシナリオメモを書いています。

りらさん、すません。 思いっきり世界を広げてしまいました。
広大な南の大陸は、書きながら世界を作っていきます(殴)

ではでは〜、毎日連載すらまだまだ序盤のクセに相当先の世界も作っちゃいましたが全部宜しくです(滝汗)

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