レオニード城の暑き闘い 1




 ヨルド海沿岸地方、北東に位置し雪が降り止む事のないここポドールイの街は、五百年以上の長い時間を生きているヴァンパイアのレオニード伯爵が治めている。伯爵は、伝説の魔王も知ると言われている上に聖王からその血を注いだ聖杯を授かり、歴史上の真実を知る唯一の生き証人でもあり、優れた情報網を持った人物でもある。3度目の死食から16年経ったそんなある日、隣国のツヴァイク公爵は伯爵の持つの聖杯を求めて、自国のトーナメント戦に勝ち抜いた強者の冒険者達を派遣したという情報を伯爵は知る事になる。
 そして、レオニード城の入り口から「たのもー ・・・開かないのか、いかにも古臭いヘボそうなドアなんかぶっ壊しちまえっ!! ・・・なんだ開いたぞ、よし入るぞ」と、野太い声がやんや聞こえたので冒険者達がやって来た。城に入ったトーナメント戦に勝ち抜いた冒険者達とは、ハリード、ウォ―ド、太めの怪傑ロビン、ブラック、詩人、ポールの6人でいかにも、がめつそうで汗臭く、むさ苦しさに満ちた一行だった。
 レオニード伯爵は、客人を迎えていたのだが彼らの来訪を知っていてか、玉座の間で紳士の如く優雅に座って待っていたようだ。
「あんたが、聖杯を持っていると聞いたが?」玉座の間に入って来た、ハリードの第一声だった。
「ああそうだが。 聖杯は、あいにく地下の私の部屋にある。 そちらまで来てもらおう。 ぜひ、生きたまま辿り着いて欲しいな」
 レオニードは冷笑を浮かべて優雅に皮肉を込めて答えたのだった。
レオニードの挑発的な返事に対しハリード一行は『売られたケンカは買うぞオラァッ!』という不遜なふてぶてしい態度で睨み返していた。だが、ハリードは玉座の間の騒がしさに、何者かが近づいてくる気配を感じた。
「なあ、あんた客でもいんのか?」ハリードはこの城の主に、聞いてみた。
「ええ、古くからの友人が久しぶりに訪ねて来て下さったのですよ」
 レオニードはハリードの質問を優雅に答えた矢先。ここへやってきたのはポドールイより南方に位置して、日増しにその勢力を拡大させているロアーヌ侯国の侯爵ミカエル=アウスバッハ=フォン=ロアーヌだった。


「ミカエル! 何でお前がここに・・・?」ハリードは驚いて現れた人物に声を掛けた。
「ハリードか・・・騒がしい。 お前こそ、一体どうしてここに来たのだ?」
 言われたミカエルも、ハリードがここに来た事を逆に問い出すのだった。
「ミカエル侯、彼らは我が城にある聖杯を求めてやって来たのですよ。 まあ、生きて手に入れられるかどうかは判りませんがね」レオニードが二人の間に割って入り、皮肉を込めて答えた。
「聖杯? ツヴァイク公爵が、開いていたトーナメントの優勝者はお前達だったのか、なるほどな」
 ミカエルもすぐに合点が付き納得して、更に言葉を続いた。
「しかし、あのツヴァイク公爵はモニカの縁談話が破棄に終わった後、懲りずに次はトーナメントを開いていたようだな。 その目的が聖杯だったとはな・・・。 フッ、公爵もセコイ事を考えていたのだな」
 それを言ったらお終いだと言うような、身も蓋もない言葉をさらりとクールに言ってのけたミカエルだった。冒険者達は、ツヴァイクの隣国にある国王の身も蓋も無い冷たい一言を聞いて、そのセコイ事に命懸けで付き合っている俺達は一体何なんだろう・・・と心底思ってしまう。
「ハ・・ハハ・・・」
いつの間にか、乾いた笑い声が玉座の間に虚しく響き渡っていた・・・。


 伯爵とむさ苦しい一行の険悪な雰囲気は、ミカエルの問題発言で見事に粉砕されて忘れ去られてしまった。だが、始めに何とか気を取り直したのは、さすが500年以上もの長い人生経験のあるレオニード伯爵だった。
「・・・さすが我が親友よ、鋭い指摘をされますね。 友よ彼らは何をするか判りませんので監視の役目を御願いしたい。 では私は、聖杯のある部屋に先に行って待っていましょう。 ハハハハハ・・・・」
 そう言ってレオニードはどういう方法を使ったのか判らぬまま、7人を残して消え去った。
ミカエルは、親友の嘲笑の声に心なしか虚しさを感じずにいられなかった。
こうして7人は、玉座の間に取り残されたのだった。


 それから数分後、ミカエルはハリード達と目が合った。
「あ〜あ、行っちまったぜ。 けっ、あいつをとっ捕まえて聖杯のある部屋まで案内してもらう計画がパーじゃんか、ハリードどうするよ」と、物騒な事をこともなげに言ったのはブラックだ。 「おっ、あんたは有名人だから知っているぜ。 俺様は海賊ブラック様だ。 覚えておけ!」
 ブラックが、ミカエルに早速自己紹介を始めたのを見て、ぽろ〜んと自慢のフィドルを響かせながら、詩人はブラックの脇に乗り出してきた。
「一曲いかがですか? あわわ・・・」
 お決まりのセリフを言った直後、詩人は背後からロビンに押されて遠ざけられてしまう。ミカエルの前に出てきたロビンは「お前はここで何をするんだ!」とツッコミを入れてから。
「ハハハハハハハ・・・・・・・・ 天知る 地知る ロビン知る! 正義の味方、怪傑ロビン参上! ゼェゼェゼェ・・・ハァハァ・・・」
 こちらは必要以上にカッコをつけて、仲間やミカエルにツッコミを入れられるより先に言い切ったので息が荒く、周りは何も言うことができなかった。
「あ〜、おれはポールって言うんだ。 冒険者に憧れてギドランドの村を離れて放浪後、ハリード達と出会って旅をしているんだ。 故郷に帰ったらニーナに、ロアーヌ侯爵と直接話をした事を自慢しよう」
 ポールが嬉しそうに言った。
「ポール・・・お前は勝手に付いて来たんだろーが。 俺はウォードだ。 普段はユーステルムで狩猟生活をしているんだ。 こいつらと一緒にいるといい稼ぎになるから冒険に加わった。 よろしくな、ロアーヌ侯爵さんよ」
 ポールとは逆に、ウォードは簡素に言った。不気味な雰囲気を常に醸し出しているレオニード城なのに、全く似つかわしくない賑やかで騒々しい自己紹介・・・いや自己主張がやっと終わったのだった。

「・・・・・・ハリード。 お前、苦労をしてないか?」ミカエルがハリードへ向けた第一声はこれだった。
「いや、そんな事よりミカエル・・・お前、どうしてここにいるんだ?」
 ハリードはミカエルに指を何度も指しながら、先ほどからの疑問をようやく口に出来た。
「フッ、なんだその事か。 ゴドウィンが反乱を起こした時に、モニカ達が急に押しかけて世話になったその礼を言いに来たのだ」ミカエルもここに来た理由を、そっけなく答えた。
「意外と律儀なんだな・・・」と、それを聞いてハリードは驚いたような感想をボソリと言った。ミカエルはそれを聞いて、苦笑するしかなかった。


 そして、ミカエルは玉座に向かって右に位置する階段の先にある部屋で、先ほどまで親友と談笑を交わしていた部屋に繋がっている事は判りきっているのだが。・・・もし、彼らが休憩を取ると、聖杯の事なんぞ忘れて大宴会を開き三日三晩は続くのであろうと、判りきった想像をしてしまい、今から頭が痛くなってくる。
 そんな結論を出したミカエルは、ハリード達を先に促す事を決めて、反対側の階段に聖杯のある部屋に続く階段が在ることを告げたのだった。 こうしてようやく、一行は聖杯を求めて玉座の間を離れて、地下にあるレオニードのいる部屋を目指すことになった。


 ハリード達は、襲い掛かってくる骸骨系のモンスターを、汗臭い匂いをばら撒きながら余裕で倒していき、広い通路をずかずかと進んで行く。広間に出れば隅々まで宝箱が無いか調べてひとつ見つかった、中には200オーラムが入っていた。下に続く階段を降りる時に「けっ、200オーラムしか入ってねー。 ケチッ」と言う声が聞こえてくる。ミカエルは内心『・・・セコイぞ』とツッコミを入れていた。


 階段を下りて広間と思えた空間はなんと、地下5階分はあるだろう階段の回廊だった。回廊を降り終わるまでの間、下の階層から流れる空気が悲鳴のような音に似て聞こえてくる。そんな中、ポールは詩人の背後に回って「うらめしや〜〜」など、つまらない事を耳元で囁く。詩人の脇で"それを"聞いたデブロビンが「キャアァァーーッッ!!」と甲高い悲鳴を上げてしまう。
 ロビンの背後にいたウォードが「うっせーぞぉ!! このデブッ!!」と怒鳴っている間に、ウォードがロビンを蹴り落として、すでに回廊の半分まで落ちていた。この回廊には、モンスターは現れなかった。
 しかし、回廊を降り終わった時には、怪我人が数人出ていたのだった・・・。
ミカエルは、この光景の有様を一部始終見てしまい『・・・こいつら、アホだ』と心底思ってしまった。


 下の階に降りると、普通の一軒家の部屋よりも広い迷路を連想させるような場所へ来た。彼らは、入り組んだ廊下の隅々を見回しながら前に進んで行った。いくつか寝室らしき部屋が見つかり、その部屋でやっと宝箱を見つけた。宝箱の中には、ガードリングが入っていたのだが、すでに持ち物袋が一杯で、もうアイテムを入れることが出来なくなっていた。
「ガードリングか・・・。 売れば金になるしな」
 ハリードは、持ち前のがめつさを発揮して売値の事も考えて言う。何気に目を凝らしていたブラックは、ある物に気が付く。
「このままにしておけねぇよな、ハリード。 よっ、ウォード。 あんたの赤いハットの中に、袋に一杯入っている傷薬を全部入れちまおうぜ」
 ブラックはナイス名案と自慢げに言ったのだった。詩人は、ブラックの提案を耳にして・・・。
ユーステルム 最強の戦士ウォード〜♪ 
赤い鎧と赤いハットが目立つ大男〜♪
真っ赤なハット パンパンに膨らんで面白い〜♪ ルルル〜〜♪ ドヒィッ!!・・・」
 ぽろ〜んと自慢のフィドルを響かせながら、即興で新しい詩を詠った。
その直後、赤い大男に思いっきり殴られた。
 殴られた詩人を見ていたミカエルは『・・・聖王記はまともなのに、何故新しい詩は・・・こうもチンケなのだ?』と思うのだった。


 ドケチな冒険者達は、持ち物袋に余裕ができてから意気揚揚と進んで行く。部屋の前に立てばワザとらしくブラックが「レオニードさんよ、いるか〜?」と呼びながら空き部屋を、空き巣よろしくのように覗いている。金目品を見定めては、質屋に売ったらいくらになるのか相談をしていて中々先には進まない・・・。高価そうな蜀台を調べてみたら、何処からともなく金タライならぬ精霊系のモンスターが落ちて来た!
「けっ、俺たちの敵じゃねぇ! やっちまおうぜ」
 ハリードが言った時には、デブロビンがすでにマントを翻しながら華麗にライトニングピアスを放って先制攻撃で倒していた。そしてまた、質屋の話に戻ってしまった。
 ミカエルは、レオニードの言葉がずっと引っ掛かっていたのだが、その予想が見事に的中した光景を眺めている。そして、こめかみに指を当てて「幸先思いやられるな・・・」と、溜め息を吐いたのだった。


 何とか奥へ進んで行くと、強敵ヤミーが現れた!
ハリードは気合を入れて「よっしゃぁ、必殺のフォーメーションだ!」と作戦の指示を出した。鳳天舞の陣の中心にウォードが入り、ハリードは陣の後に立ち残る4人は中心のウォードを囲む。
「攻撃を耐え凌げ! やつが持っている武器を奪ってから止めを刺せ!」
 ハリードは矢継ぎ早に怒号のような声音で指示を出す。ヤミーが先制攻撃である『ぶちかまし』の後、死人ゴケの連続攻撃を放ってきた!ロビンがポールを、詩人はウォードを万能薬で回復させて、ブラックは仕込杖を抜いて抜刀ツバメ返しで切りつけた。ヤミーがダメージで傾いたのだが、何とそれは、ハリードがいつの間にか背後に回って、自慢の曲刀を抜いてバックスタップで斬りつけていたのだ。
 戦闘が始まって早々、思わぬ展開を見せられたミカエルは、「必殺とは、・・・セコイし汚いぞ」と呟きながら茫然と眺めていた。



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